断片的な思い出 一 「一歳半の曼荼羅世界」 [思い出]
母が僕を背中に背負って台所脇にある、ガス風呂に火をつけている。
あのガス風呂特有の匂いを嗅ぐと必ず思い出す光景だ。
ガス風呂の匂いは都市ガスやLPガスの匂いとは違う。あのようなとってつけたような匂いではなく、ものが燃焼した乾いたような感じの匂いである。
この光景は一番古い思い出である。おそらく三つになるかならないかの頃だろう。
あの頃は東村山の萩山という新興住宅地の一軒家に住んでいた。
当時としてはモダンな平屋であった。和室の六畳二部屋に洋室の十畳。四畳半も付いていた。
僕の小さなベッドと両親のダブルベッドは洋室にあった。
それに台所と風呂とトイレ。広い庭には砂場があり長十郎と二十世紀の梨の木が庭のそれぞれの端に植わっていた。
確か小さな台所は四畳半にもあり、つまり四畳半と六畳を間借りをさせることができるような構造になっていた。
庭と玄関を結ぶ隣のアパートととの路地には井戸のポンプがあってたまに大げさなモータ音をうならせていた。
そして、井戸の近くにアパートの人たちが使う洗濯場があった。
この隣のアパートは実は祖母のものであり、うちはその管理人も任されていたわけである。
家を出て右に行くとすぐ線路があり、向こう側は広い小平霊園の敷地だった。
アパートと反対の隣は200坪ほどの空き地であった。ここは長い間、近所の子供たちとの遊び場であった。
そんな中で僕の一番最初の曼荼羅が形成したのである。