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常連と呼ばれたい男 [どうでもいい話]

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昔、住んでいた団地の中の喫茶店は僕は昼夜問わず入り浸っていた。 まだ当時は新しい団地だったのでなじみの小中学の同窓生の若い客が多く、店は賑わっていた。 ところがたまに変な客が混じることがあった。


その変な男は、やたらと人の話に入り込みたがり關係無いのに口を出す。 しかも、店の中でウエイターよろしく、カップやら皿やらはこんでいる。マスターやママが、「結構ですよ」と言っても「いつもお世話になっていますから」とやめない。その内みんな面倒臭くなって来て「出入り禁止」にしようということになった。


彼はご丁寧にも店に来る時に電話をしてくる。Hくんと言うバイトが電話をかけて来た時に「今日はお休みです。」たウソを言い、昼間で客がいるのに、シャッターを閉めてしまった。 しかし、そいつは様子を見に来てウソだと気づいたらしく、今度は交番のお巡りさんを連れてきた。 お巡りさんはしばらくバイトくんと話していたが、単なるよくあるクレーマーのトラブルとわかると、そいつにあんたも店では大人しくしてなさい、と言って交番に帰った。


それから二、三日たち彼の反撃が始まったのだった。 彼が反撃に出たというのは、喫茶店に入り浸っていた客の自宅をピンポイントで攻撃し始めたのである。 彼の部屋は偶然にも僕の住んでいた部屋と同じ棟にあった。だからかうちからそれは始まったのだ。 まず、うちに帰ると、ドアの取っ手に汚い雑巾が引っかかっていた。最初は子供のいたずらだろうと気にしなかったが、ある日部屋にいると玄関の外でガサガサ音がするので内部から外を見るスコープを覗くと、奴が立っていた。怯まず扉を開けて怒鳴ると、大急ぎで階段を降りて行った。 奴は僕が近所で突き止めたのだな、と思ったがその後はしばらく何事もなかったので追及はしなかった。 ところがである。


ある夜、家に帰ると、玄関のドアが真緑に塗りたくられている。よく様子を探るとそれは、チューブのわさびであった。これは奴の仕業に違いないと交番に通報したが、ただのイタズラと片付けられてしまう。 警察でも深刻に受け止めてもらえないとわかると僕は近くの友人のうちに転がりこんだ。 玄関にワサビをぬりつけられたのは、まだ良い方で近所では大変なことが起こりつつあったのである。 これから先は、食事時には読まないで下さい。 僕の団地の棟には、妙な事が起き始めた。 ベランダに糞尿の入った牛乳瓶が投げ込まれたり、玄関の扉にわさびどころか、大便をなすりつけられる事件が続発した。 しかも、特定のうちではない不特定多数のうちにである。僕の行っていた喫茶店の客に、ピンポイントで悪さをするんでなく手当たり次第である。


僕は大体だれが犯人か予想はついていた。しかも彼〔仮に渡辺としておく〕は喫茶店を締め出されても、なおその喫茶店に入り浸っていた。しかし、客も店の人間も誰も相手にしなかった。しかし観察力の鋭い客は気づき始めていた。 渡辺はトイレに長時間居座り、出てくるとなぜか腹を膨らませていた。しかも猛烈な悪臭を放っていた。 「これは、もう出入り禁止だな」とマスターがつぶやいていた。 そしてしばらくして全てが判明した。


渡辺が逮捕されたのである。 つまり、団地の悪質ないたずらに警察の手が入ったのである。 渡辺が団地のベランダに糞尿の入った牛乳瓶を投げ込もうとしていたところを刑事に取り押さえられたのである。 渡辺が恨みに思っていたのは、喫茶店の客だけでなく隣近所複数にわたっていたのである。 彼は予想通りサイコパスで、40近いのに、仕事もしていないでぶらぶらしていたらしい。母親と暮らしていたとも。 この小さな事件は、内容が内容なだけに新聞、雑誌を賑わした。顔写真付きで掲載されていたこともある。


それから約一年後、団地の中にある地域センターで渡辺を見かけた。 彼は精神疾患ということで無罪になり、病院で薬漬けにされたのだ。僕の顔を憶えていたらしく、立ち上がり虚ろな顔、呂律の回らない口で。「お世話になってまあす」と何度もお辞儀をしてきた。

もう30年もまえのことである彼は元気気だろうか。

おしまい sadness-river-boy-pierce-wallpaper-preview.jpg

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コメント 3

ぼんぼちぼちぼち

結局、精神疾患の人だったのでやすね。
まともな人が常連になりたかったら、他の客や店の人のご機嫌取りをするとかでやしょうけど、
もうワサビの段階で、常軌を逸してやすね。
へえ、新聞沙汰にまでなったのでやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2021-10-27 11:44) 

夏炉冬扇

今ではもっとこういう人いそうですね。
社会が病んでいるから。
by 夏炉冬扇 (2021-10-27 17:50) 

リンさん

うわ、怖い怖い!
関わりたくないですね。
本当に災難でした。
by リンさん (2021-10-28 18:15) 

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